ブックタイトルメカトロニクス2月号2020年

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概要

メカトロニクス2月号2020年

44 MECHATRONICS 2020.2   日本の産業構造の変化にともなう電子機器分野の話題商品を追う第20回 <裏の技術(1)>連載  日本のモノ作りで強いのは、表面に出てこない製造技術を持ち合わせており、さらに「匠の技」ともいえる伝承技術がある。 新しい技術が開発されると華々しく紹介されるものの、実は表面にでてこない技術がある。表面に出てこない技術を「裏の技術」と定義して、一体どのような裏の技術があるかを明らかにして日本のモノづくりの強さを検証していきたい。 元々、『裏の競争力』として、東京大学教授の藤本隆宏氏が提唱したもので1)、『表の競争力』とは“デザイン”、“性能”、“機能”、“操作性”、“容易性”、“携帯性”、“ 価格”、“アフターサービス”など顧客が理解しやすく見えやすい価値についての競争力であり、『裏の競争力』とは“ 歩留の高低”、“ 生産性の優劣”、“生産品質”、“コスト競争力”、“サプライチェーン構築”など顧客に見えにくい価値の競争力を指している。 この『裏の競争力』があるように『裏の技術』について4 回にわたって検証してみることにする。1. 日本のモノづくり技術 「Made in Japan」と言うと、昔は「安かろう、悪かろう」のイメージであったが、品質に対して強いこだわりをもつ日本人は、高品質の製品を作り、今や「最高の品質とデザイン」に優れるところまでなってきた。世界に通用する高品質のブランドイメージとなっている。 振り返れば敗戦後、荒廃した廃墟から多くの困難の中で復興に立ち上がった。 戦後教育の徹底による日本人のレベルアップと海外からの技術導入に加え自前技術を見事に融合させて高品質な製品を次から次へと生み出すモノづくりを確立し、世界をリードする経済大国となった。 戦後の日本のリーディング産業は、繊維に始まり、造船、鉄鋼など“重厚長大産業”が続いた。そしてその後、“軽薄短小産業”がリードする形となった(図1)。 1970 年代から2 度の石油ショックを経験し、見事に克服するとともに、さらに為替の大特定非営利活動法人 日本環境技術推進機構 青木 正光変動や日米間の経済摩擦などを経験した。自動車産業も強くなり、海外でも評価されるようになった。 1980 年代になると自動車とエレクトロニクスの両分野が台頭し、黄金時代を形成し、モノづくりの基礎が築き上げられた。 1980 年代の後半は、「ジャパン・アズ・No.1」と呼ばれ、自動車や電機産業は世界一の水準に躍り出た。世界の半導体メーカーの売上高ランキングで1990 年代初頭にはTop10に日本企業が6 社も名を連ねた(写真1)。日本人の底力は、経営者と従業員が一体となって危機を乗り切った所にある。 明治維新後に工業化ができたのは、実は江戸時代にモノづくりの基盤があったからこそ出来たとも言われる。 江戸時代には日本独自の文化が発達するとともに、既に江戸は100万人都市となって、生活システムが出来上がり、リサイクルも構築されていた。 欧米に追いつき、追い越せといった明確な目標がある時代には、日本の生産技術者の集中力は際立っており、技術者と現場作業者との共同作業の中で、独特の「日本式生産システム」が追及され、世界的に異彩を放っていた。 しかし、1991年のバブル崩壊後の低迷と米国の巻き返し、韓国、台湾、中国の台頭で、日本の製造業は自動車などを除くと一気に失速してしまった。 日本企業の勢いが無くなった頃、「明日の日本を築く特効薬はリストラ」の合言葉の下に企業再生が実行され、50歳頃の優秀な人材が他の産業などに逸散する動きとなった。  2004 年度の「ものづくり白書」によると、日本の製造業の特徴は、高度部材産業の集積や企業間、企業内の「摺り合わせ」技術があげられている(写真2)。2~3) 素材、高機能部材から金型、資本財まで幅広い産業が高い技術力を強みに競争力が保有している点にある。 部材産業が強いことは、最終製品を生産するセットメーカーの強みにもなっている。日本が得意とする製造現場の「現場の力」で差をつける点も大きな原動力でもある。 日本には、長年の歴史で築いてきた繊細な文化や文明があり、丁寧にモノを作りあげ、少しでも良くしようとする意識がある。 人の入れ替わりが激しいと技術の蓄積が乏しい人材が増え、製品不良率が高まる傾向がある。特に海外では、転職率が高い国があり、製品不良率で苦慮している例が存在する。 日本の製造業では、品質・効率の改善活動は当たり前で、常に危機感や問題意識をもち、「これでよい」という満足することに安住しない所に良さがある。これが、日本の産業競争力の一つとなっている。 何か問題が生じた時に、問題を解決するために飽くなき追求し、徹底的に実行する精神をもち合わせ、本物の技能やスキルを究めるまで挑戦する精神構造をもっている。 このような精神を東京大学大学院工学系研究科の飯塚教授は、「真理追求型ハングリー精神」と名づけ、特に団塊の世代(第一次ベビーブームが起きた1947 年~1949年に生まれた世代を指す)が、このような精神構造をもっているとの指摘がある。 戦後の日本の繁栄をここまで導いた最も基本的な要因を上げると、効率生産方式を確立した「製造業」であった。 次の製品開発はモノづくりの現場から生まれる。そう言う意味では、国内にモノづくりを残しておくことも必要であることは言うまでもない。では、具体的な各論について紹介したい。1-1. 組織力 試行錯誤の積み重ねを愚直に持続できる力を組織全体がもっている企業が強い(例えばトヨタの例)と言える。一人ひとりが活き活きと働き、会社が継図1 日本のリーディング産業の変遷写真1 Japan as Number 1 写真2 ものづくり白書(2004年度版) 図2 職場力の構図食糧産業(1945年代) → 繊維産業(1950年代)  → 造船・鉄鋼産業(1960年代)   → 自動車産業(1970年代)    → 電子産業(1980 ━ 1990年代)     → IT産業へ(2000年代)固有技術職場力管理技術和の心