テクニカルレポート

2019/10/11 / テクニカルレポート

シリーズ;さまざまな研究所を巡る(第10回)

〜海洋研究開発機構(その3)〜

厚木エレクトロニクス  加藤 俊夫 氏

 

 

1. はじめに

 本年6月の大阪でのG20会議で、2050年までにはプラスチックの海上への流出をゼロにすることが決定された。

 今年初めに、プラスチックのストローを廃止しようと言う運動がヨーロッパで始まり、日本でもいくつかの喫茶店が同調していると聞いて、筆者は、そんな程度の話ではプラ削減にならないと思ったが、プラ削減のシンボル的な運動と考えれば大いに意味のある運動とも言える。

 そんな折、海洋研究開発機構(JAMSTEC)は、地球環境シリーズの第16回講演会として、「脱プラスチック オーシャン~海洋科学者と一緒に考えよう~」が、7月30日に開催されたので、今月はこの報告をしたい。

 500席の会場が超満員の盛況で、多くの方々の関心の深さが伺われる。

 以下、マイクロ・プラスチックをマイクロプラと略称する。

 

 

2. プラスチックの処理の現状

 2016年に全世界でペットボトルが年間4800億本も消費されていると聞いて驚く。

 2013年の日本のプラスチックごみの内の25%がリサイクル、67%が焼却処分、埋め立てが8%程度であり、日欧米では、排出されたプラスチックは90%近くが管理されて処理されている。

 しかし東南アジアでは57%が管理されていないといわれ、多くが海に流れている。

 プラスチックは元をたどれば石油であるから、廃プラスチックの焼却処理は温室効果ガスを発生させているわけであり、温暖化対策としては良い方法とはいえない。

 2016年の世界のプラスチック生産量は3億3500万トン(化学繊維を除く)で、人類が今までに捨ててきたプラスチックごみは、おおよそ63億トンである。

 廃プラスチックの半分近くが容器・包装などの使い捨て用途である。

 現在、北極や南極の氷の中にもプラスチックが見つかっている。

 このまま対策を講じないと、2050年には海洋に蓄積されるプラスチックは10億トンにもなり、全世界の魚の重さが8億トンといわれるので、プラスチックの方が多いと言う事態となる。

 プラスチックは、軽量で、丈夫で、折り曲げられ、安価なので実に便利な素材である。

 そのため、我々の生活に大いに役に立っているが、その優れた性質のため、木材や紙のように朽ちることがなく、厄介な存在となっている。

 以下、あまりにも常識過ぎて読者の皆様に失礼かも知れないが、参考までにプラスチックの分子式(図1)と、主な用途(表1)を掲載しておく。

 

図1 代表的なプラスチックの分子式

 

 

表1 主なプラスチックの物性と用途

 

 

3. マイクロ化

 プラスチックが、河川や海などの環境中に流れると、紫外線や熱酸化で劣化して脆くなる。

 波や岸へ打ち上げられた時などの衝撃によって破れて、大きさが5mm以下のマイクロプラになる。

 海面に浮かぶマイクロプラを調査のために掬うのは300μmメッシュの網などなので、それ以下の大きさの分布は余り良く分かっていない。

 マイクロではなくナノプラスチックも多いと思われる。

 マイクロプラは、添加剤を放出する一方、PCBといった残留性有機汚染物質をスポンジのように吸着している。

 マイクロプラが、陸から広い外海へ広がり、さらに深海へ蓄積する過程や、生態系への影響は大半が未知であり、今後の精力的な研究が待たれている。

 

 

4. The Missing Plastics

 海へ流出したと思われるプラスチックのうち、実際に海洋の表層から採取されたデータから推定されるプラスチックの量は1%程度であり、99%はどこへ消えたか不明である。

 これを「消えたプラスチック:The Missing Plastics」と呼んでいる。

 海底に沈んでいるプラスチックも多いらしいが、海中に漂っているのも多いらしい。

 多くのプラスチックは比重が1より小さいので、そのままでは海に沈むはずはないが、藻やその他の生物が付着するなどして沈むと考えられる。

 (図2)は、なんと世界一深いマリアナ海溝の水深10,898mで発見されたプラスチックである。

 

図2 マリアナ海溝で見つかったプラスチック袋の破片と見られるごみ(水深10,898m)(提供:海洋研究開発機構)

 

 JAMSTECでは、海底に沈んでいるごみの情報を公開している(JAMSTEC深海デブリデータベース)。

 (図3)は、海底の堆積物の表面を乱さず採取するマルチプルコアラーランダーと呼ばれる装置である。

 

図3 海底の堆積物を採取するマルチプルコアラー(提供:海洋研究開発機構)

 

 

 この装置は円筒形の筒をゆっくり堆積物に差し込んで、蓋をしたあとで調査船上に回収される。

 採集された堆積物中に含まれるマイクロプラの数や種類を調査する。

 

 

5. マイクロプラのより分けと分析

 JAMSTECでは、特に300μm以下のサイズのマイクロプラの材質・形状・サイズ・個数を、(半)自動で定量・定性分析できるシステムの構築を行っている。

 泥の中のマイクロプラを探すのは非常に大変である。

 比較的大きな粒子は顕微鏡などでピンセットを使って拾い出すことができるが、小さい粒子の場合は、蛍光色素で染めて見易くして蛍光顕微鏡で検出することもある。

 また、有機物や炭酸塩が混入している場合は酸で溶かして検出しやすくしている。

 比重の大きいヨウ化ナトリウム液を注ぐと、軽いプラスチックが浮かぶので、比較的容易に回収することもできる。

 このような処理を行った後、顕微鏡で見ながらピンセットで摘んで取り出したり、種類を判別する機器で測定したりする。

 プラスチックの種類を判別するには、FTIR(図4)が用いられる。

 

図4 FTIRの原理

試料に赤外光を照射し、透過または反射した光量を波長に対してプロットすると、分子構造や未知試料の定性分析が可能となる。赤外線スペクトルは物質の分子構造によって固有のパターンを示し、試料の濃度や厚みの定量分析を行うこともできる

 

 また、すばやく材質を見分ける方法として、近赤外線(1000~2400㎚)の反射を利用したハイパースペクトルカメラ(図5)を利用する。

 

図5 ハイパースペクトルカメラ

試料から反射した光はレンズとスリットを通り、コリメーションミラーを介してグレーティングに向かい、水平画素1ライン分を分光する。次いでフォーカシングミラーを介してカメラへ向かい、1ライン分の画像情報と波長情報 を得る

 

 JAMSTECでは、海水を連続的に採取し、それをハイパースペクトルカメラで分析するための装置開発を目指しており、それを用いることで迅速かつ大量の分析できるシステムが構築できる。

 

 

6. マイクロプラの浮遊状況

 九州大や東京海洋大などの研究グループは、2016年、南極から東京までの太平洋上の海面付近でマイクロプラを採取し、海水1立方メートルあたりの浮遊分布を調査した。

 1972年から2010年までの増加量を調べた米国の研究結果と合わせ、50年後までの太平洋全域の浮遊量を予測したのが(図6)である。

 

図6 プラスチックごみの浮遊量の予測画像(磯辺篤彦九州大学教授のご提供)

 

 マイクロプラの太平洋の海面浮遊量が、2030年までに16年の約2倍、60年までに約4倍に増えると予測される。

 特に日本周辺や、北太平洋中央部の浮遊量が大きく増えることが分かった。

 プラスチックごみの排出が多いアジア地域に近いことや、海流の影響が大きいとみられる。

 2060年には、1立方メートル当たり1000ミリグラムを超えると予測される海域が、広範囲に及ぶことも判明した。

 海洋物理学の権威の磯辺篤彦九大教授は「海洋生物への影響が懸念される濃度である。

 科学的根拠に基づいたプラスチックごみの排出削減計画を立てるべきだ」と話しておられる。

 

 

7. 生物への影響

 マイクロプラが、陸から広い外海へ広がり、さらに深海へ蓄積する過程や生態系への影響は、大半が未知のままである。

 JAMSTECでは、マイクロプラを含むプラスチックごみの分布を効果的に調べるための技術開発や観測を実施し、またプラスチック自体、もしくはプラスチックに含まれる化学物質が生物へ与える影響を調べている。

 微小なプラスチックはプランクトンが食べていることが確認されている。

 そのプランクトンを魚が食べ、さらに大きな魚が食べるという食物連鎖によりプラスチックが大型生物に移行することが心配される。

 また、ウミガメは漂っているレジ袋をクラゲと間違って食べてしまう。

 クジラはオキアミなどを大量に吸い込むから、プラスチックも同時に体内に入ってしまう。

 (図7)は、海洋プラスチックから何らかの影響を受けている海洋生物の種類を表したグラフである。

 

図7 プラスチックの影響を受けている海洋生物の種数(Kühn et al. (2015)を元に作成。提供:海洋研究開発機構)

 

 

8. まとめ

 筆者は、今回の取材を通じてプラスチック問題に目覚め、以来ペットボトルの飲料は買わないようにし、小さな魔法瓶に家で作ったお茶を持ち歩いている。

 また買い物には大きな袋を持参して、プラ袋は貰わないようにし、2円割引いてもらっている。

 こんな些細な努力の積み重ねが重要だと思われる。

 国連は、2030年をターゲットにしたSDG(持続可能な開発目標)の中に、プラスチックを含む海洋汚染の軽減を挙げている。

 日本でもプラスチックごみ軽減の行動目標が発表されている。

 ただ、マイクロプラの実態が未だ良く分かっていないと、世界の研究者自身が述べられており、海洋国家の日本としては、JAMSTECがこの分野で世界をリードするような活躍されることが期待される。

 

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